不動産の遺産分割の方法
※このコラムは動画でも解説しています。
遺産分割の際に、現金であれば相続人が複数名いた場合でも1円単位できっちりと分けることができます。株などの有価証券も比較的売却は簡単なので、売却して金銭で分けることもできます。
ところが、不動産については遺産の中で占める割合も大きく、遺産分割するにあたってどのように分けるか色々と検討しなければならないことがあります。
そこで、今回は不動産の遺産分割の方法について解説したいと思います。
不動産の遺産分割の方法
不動産の遺産分割の方法ですが、次の4種類があります。
- 現物分割
- 共有分割
- 代償分割
- 換価分割
一つずつ説明していきます。
①現物分割とは
不動産を現物のまま分割する方法です。例えば、土地を2筆に分筆して片方を相続人のAさん、もう片方を相続人のBさんが相続するように遺産分割協議を行います。
相続した不動産が比較的広い土地の場合であれば現物分割をして相続人が平等に相続するということも可能です。
しかし、あまり大きくない土地や形がいびつな土地、そして建物などは簡単に分割できるものではありませんので、こういった不動産の場合は別の方法を検討する必要があります。
②共有分割とは
不動産を相続人の共有で取得する方法です。現物分割のように物理的に分ける必要もないので手間がかかりません。
しかし、不動産を共有名義にしてしまった場合、後で売却等処分する際には共有者全員の合意が必要になるので反対者がいると売却できなくなるようなこともあります。
他にも共有者が認知症になってしまい判断能力が無くなる、共有者が死亡して相続によって新たな共有者が出てくるなどリスクも多くなります。
③代償分割とは
不動産を相続する人が相続しない人の相続分を自身のポケットマネー等で補填する方法です。不動産以外の遺産(現預金や有価証券など)が沢山あれば、不動産を相続しない人はこれらの金融資産を相続すれば良いのですが、日本の多くの家庭において財産のほとんどを自宅などの不動産が占めています。
不動産を相続人の内の一人が取得して、他の相続人も平等に相続するには不動産を相続する相続人が代償金(もしくは代償財産)を支払って他の相続人の相続分を補填する必要があります。この場合の代償金には贈与税は課税されませんが、遺産分割協議書には代償分割であることをきちんと明記しておきましょう
しかし、不動産を相続する人が代償金を払える資力がないと成立しない方法となります。
④換価分割とは
不動産を売却して金銭に換価して各相続人で分配する方法です。相続した不動産に誰も住む予定がなければおすすめの方法です。
一旦、相続人全員の共有名義にしてから売却して相続分に応じて売却代金を分配する方法もありますが、この場合は不動産売却にあたっての契約や決済を相続人全員で行なわなければなりませんので予定の調整や手間がどうしてもかかります。
そこで、代表相続人の名義にして売却換価した後に各相続人へ相続分を金銭で支払う換価分割がおすすめです。当事務所で換価分割のご相談をいただいた場合には基本的にはこの方法をご提案させていただいています。
換価分割でよくある質問
さて、4つの遺産分割の方法の中で最後にご紹介した換価分割ですが、よく質問をいただくことがあるのでご紹介します。
Q.遺産分割協議書の書き方で注意しなければならないことはありますか?
A.「換価分割」であることが明らかに分かるように書くこと!
換価分割の場合、遺産分割協議書の書き方に注意が必要です。例を挙げて説明します。
良い例
甲不動産をAが取得する。ただし、Aは甲不動産を売却換価した後にBに対してその相続分として売却代金の2分の1を支払う。
悪い例
甲不動産をAが取得する。
悪い例では、甲不動産を単純にAさんが取得したことになってしまいます。この後に他の相続人に売却代金の一部を譲渡すると、贈与とみなされて他の相続人に贈与税が課税される可能性があります。
良い例で挙げたように、換価分割であることを明記して、贈与税の課税の問題に気をつけなければなりません。
Q.換価分割の際の不動産売却益に対しての譲渡所得税は代表相続人にのみに課税されるのでしょうか?
A.遺産分割協議の段階で相続分割合を明確に決めておけば各相続人について課税されます。
換価分割は不動産の売却が伴います。売却した不動産が取得時より値上がりしている場合には売却価格と取得価格の差に譲渡所得税が課税されます。
例えば、1000万円で取得した不動産が1500万円で売れた場合には売却益である500万円に対して課税されることになります。なお、取得日はいつの時点のことかというと、相続で不動産を取得した場合は、相続した時ではなく、被相続人が不動産を取得した日を起算点とします。
さて、この譲渡所得税ですが、複数の相続人がいる場合の換価分割で代表相続人一人の名義にした後に売却した場合に、売主となる代表相続人にのみ課税されるのかという問題が生じます。
仮に代表相続人にのみ課税されてしまった場合、金銭のみを受け取った相続人より代表相続人は税引き後の手残りとなるので取得できる相続分が少なくなってしまいます。これではあまりにも不公平なので、実際は換価分割で相続分として金銭を取得した相続人全員に課税されることになります。ただし、回答にもあるように遺産分割協議の段階で売却後にどの相続人がどのような割合で相続分として売却代金を取得するかを決めておく必要があります。
<参考>譲渡所得税の税率
所有期間が5年以下の場合の税率39.63%、5年超の場合の税率20.315%
Q.登記名義人にならずに換価後の金銭のみを取得した相続人にも居住用不動産売却の3000万円特別控除や空き家の3000万円特別控除は適用されますか?
A.要件を満たしている相続人には適用されます。一旦、代表相続人の名義にしても換価後に金銭を相続分として取得した相続人全員に各3000万円ずつ適用されます。ただし要件を満たしていない相続人には適用されません。
不動産を売却した時には譲渡所得税の控除を受けられる場合があります。代表的なものが居住している不動産を売却した場合の3000万円の特別控除と空き家を相続して売却した場合の3000万円控除です。
これらの詳しい説明は割愛しますが、相続人が複数いる場合の換価分割で代表相続人一人の名義にした後に売却した場合に、適用されるのは代表相続人のみとなるのか、それとも換価した金銭を相続分として受け取った相続人全員(ただし、適用要件を満たす相続人のみ)となるのかという問題が生じます。
答えとしては後者となります。ただし、遺産分割協議の時点できちんと換価した後の遺産の取得割合を決めておく必要があるのでご注意下さい。
<参考>空き家の3000万円特別控除の要件
- 相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者がいなかったものであること
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建物を除く)であること
- 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと
- 相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ、特例の適用期間である2016年4月1日から2023年12月31日までに譲渡すること
- 譲渡価額が1億円以下
- 家屋を譲渡する場合、当該譲渡時において、当該家屋が現行の耐震基準に適合するものであること、または解体されていること
以上、今回は不動産の遺産分割の方法について解説しました。換価分割のQ&Aを挙げましたが、税金の面でも検討すべきことがあることがお分かりになったかと思います。
税務面での詳細は税理士を交えての検討が重要ですので、当事務所では信頼できる税理士の先生を交えてご相談いただくことも可能です。
他にも、換価分割するにあたって、ご自身で仲介業者を手配するのと変わらない費用で売却手続きも丸ごと司法書士にお任せいただくことも可能ですので、相続した不動産の遺産分割にお悩みの方は是非一度ご相談にいらして下さい。