相続のプロが教える不動産の遺産分割テクニック①
※このコラムは動画でも解説しています。
不動産の遺産分割に関するよくあるお悩みについて、相続のプロである司法書士の知見から解決策をご提案します。
今回解説するのは「相続不動産を、なるべく手間をかけずに現金化して分配してしまいたい」というケース。
一般的に考えられる手法と比べて今回解説する方法を使うことで手続きを大幅に省略できます。その仕組みや注意点、不動産売買に詳しい方が懸念されるかもしれない点についても解説していきますので、ぜひご一読ください。
事例:不動産を誰も相続したくないので平等にお金で分けたい
ありがちなケースとして、相続財産の中にある不動産を誰も相続したくない、という場合があります。
例えば、田舎にある広大な実家の建物と土地に3000万円の価値があったとします。
資産価値は高いですが、3人の相続人(子供)はもうそれぞれ都会で家庭を持って家も買っており、田舎に戻るつもりもないといった場合、不要な不動産から毎年固定資産税が発生するだけになってしまいます。
そうなると、誰かが嫌々相続するよりも、お金に換えて分配してしまった方が後腐れがありません。
このようなケースでなるべく手間をかけずに手続きを完了する方法を解説していきます。
手間をかけない方法は誰かを「代表相続人」にすること
このようなケースにおいて、最も手間をかけない方法は相続人の誰かを「代表相続人」として単独で相続してもらい、不動産を売却した上で分配を行う方法です。
共有名義にすると、手続きが煩雑になる
こういったケースでプロに相談せずやってしまいがちなのが、相続人全員の共有名義として相続すること。最終的に分配される結論としてはこのような形でも問題はありませんが、手続きが非常に煩雑になってしまいます。
理由として、不動産が共有名義であった場合は売買契約や決済、登記の手続きなどの現金化するまでに要する諸手続きを原則として所有者全員で足並みを揃えて行わなければなりません。それぞれが遠方に住んでいたり、仕事の都合で予定を調整しづらいなどの事情があると、手続きの負担はさらに増えていきますね。
「委任状」を受け取ることにより、相続人の一人が代表して手続きを進めることも可能ですが、いずれにせよ直接委任状を回収する必要があるため、相続人全員の協力が必要である点は変わりありません。
代表相続人を設定して「換価分割」を行うと一人で手続きが可能
一方で、一人の代表相続人を置いて不動産を代表相続人一人の名義にした場合、不動産の売買や決済といった諸手続きは全て代表相続人一人が単独で行えます。わざわざ相続人全員で予定を調整したり、委任状のやり取りをしたりといった手間は全て省略できます。
その後、売買が完了して契約して現金化が完了した後に、その現金を等分なら等分など、事前に取り決めた通りに現金で引き渡すことにより手続きをスムーズにした上で遺産の現金での分配が完了します。
このように現金でない資産を現金化して分割することを「換価分割」と呼びます。
注意点!遺産分割協議書に明記しないと贈与税が課される可能性
この時注意しなければならないのは、上記の手続きを取る場合、遺産分割協議書(遺産をどのように分配するか話し合い、その結果を証拠として明文化した書類)に明記することです。
具体的には
「不動産を『売却換価』して分けるため、便宜上○○を代表相続人とする」
といった旨の文言を記載します。
このような記載を行わず、代表相続人が不動産を現金化した後、他の相続人に送金した場合、その送金が「贈与」とみなされてしまう可能性があります。
贈与とされた場合、受け取った側に贈与税が課税される恐れがあります。ケースバイケースですが、贈与税として課税された場合、相続税よりもかなり高額になってしまうこともあるので、「相続である」ということを遺産分割協議書の中に明記しておくことが非常に重要です。
売却の譲渡所得税は平等に遺産の取得実態で判断される
代表相続人を設定して換価分割を行った場合、気になるのが「代表相続人だけ税金が高くなってしまうのではないか」というところだと思います。
具体的には、不動産を取得した価格よりも高額で売却できた場合に発生する譲渡所得税。この負担が代表相続人一人に課税されてしまうのはあまりに不合理です。
結論としては譲渡所得税が発生した場合、換価分割を行った場合でも共同所有として売却した場合でも、同様に相続人全員に対して取得割合に応じて公平に課税されます。
譲渡所得税の課税は、登記上誰が売買を行ったかではなく遺産の取得実態から判断されるため、手続きの進め方によって課税のされ方が変わるということはありません。
まとめ
不動産を現金化して分配する場合、代表相続人を設定して換価分割を行うことが手続きをスムーズに行う手法です。
譲渡所得税は代表相続人だけが課税されると言ったことはありませんので、このような事例においてはぜひ積極的に活用を検討してみてください。
また、このような手続きを行う場合は遺産分割協議書にその旨を明記することも忘れないようご注意ください。