死後事務委任契約って何?
※このコラムは動画でも解説しています。
AさんBさん夫婦には子どもはいませんが夫婦仲良く暮らしています。ところがある日、不慮の事故で妻のBさんが亡くなってしまいました。Aさんは悲しみの中、葬儀を取り行って色々な事務手続きも一人で済ませました。Bさんは遺言をのこしてくれていたので、遺産相続の手続きはスムーズに行うことができました。
しばらくたってAさんはふと考えました。「もし自分が死んでしまったら家や遺産は遺言で親族に譲るとして、葬式などはどうすれば良いのだろう。遺言に書けば良いのかな?」と。AさんはBさんの遺言作成をお願いしたS司法書士に再度相談してみました。
S司法書士は答えました。「死後の葬儀などの手続きについては遺言では対応できませんが、死後事務委任契約というものがありますよ」とのことでした。
今回は死後事務委任契約について解説したいと思います。
人が死亡すると相続が発生します。一般的によく知られている遺言は、主に財産の承継について遺言者の生前に取り決めておくものです。遺言でできることは民法で厳格に定まっていて、それ以外のことはできません。
対して死後委任契約は「契約」です。契約自由の原則から内容はある程度自由に決めることができます。ですが遺言で決めなければならないことは遺言によるのでどちら一方でオールマイティなものというわけではありません。死後事務委任契約の目的は、死後の事務の委任です。「そのままやないかい!」ってツッコミは待ってください(笑)。
遺言は民法で定められたことしかできませんが、人が亡くなると遺産の承継手続き以外にも様々な事務手続きが発生します。例えば葬儀の手配、火葬などの埋葬の手配、行政機関への届出、親族への連絡などなどです。
遺言では遺言執行者という人を決めておくことができます。遺言執行者は遺言に記載された内容を実現する権限のある人です。しかし、前述のとおり遺言でできることは法定されていて葬儀の手配などを遺言執行者が行う事はできません。
亡くなった方(被相続人)に子どもなど、頼れる人がいる場合はこのあたりは問題になりにくいのですが、子どもがいない方やいわゆるお一人様の場合は、こういった事務手続きを誰かに頼んでおかなければなりません。
でもせっかく頼んでいたものの、頼まれた人が赤の他人であった場合に、権限を証明するものがなければ動きようがありませんよね。いきなりどこの誰か分からない人が「故人に頼まれていたので」と言っても本当なのかどうなのか、周りの人にはわかりません。
ですので、死後事務委任契約というものを生前に信頼できる人と締結しておくことによって然るべき権限を与えておくのです。ちなみに契約書の様式は定まっていませんが、委任者(任せた人)は死亡した方になるので公正証書で作成してきちんと受任者(任せられた人)の権限を明確にしておいた方がよいでしょう。
死後事務委任契約に盛り込む内容の一例を以下に掲載します。
【1】医療費の支払いに関する事務
【2】家賃・地代・管理費等の支払いと敷金・保証金等の支払いに関する事務
【3】老人ホーム等の施設利用料の支払いと入居一時金等の受領に関する事務
【4】通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務
【5】菩提寺の選定、墓石建立に関する事務
【6】永代供養に関する事務
【7】相続財産管理人の選任申立手続に関する事務
【8】賃借建物明渡しに関する事務
【9】行政官庁等への諸届け事務
これらに加えて、近年ではデジタル遺産についても考えなければならないでしょう。仮想通貨やSNSなどの普及で、近頃は従来の相続手続きと随分と様変わりしてきました。仮想通貨など財産的価値のあるものについては遺言で承継先をきちんときめて、SNSのアカウントの削除などの事務は死後事務委任契約で取り決めるなどしておきましょう。
相続対策として遺言は必須になるものですが、人が亡くなると財産だけではなく様々な事務が発生することを考えて、できれば遺言と死後事務委任契約をセットで作成しておくことをおすすめします。
特に、子どもがいない方やお一人様の方には死後事務委任契約は重要なものです。頼める人がいないような場合は、司法書士など専門家に依頼することも可能です。こういった場合には死後事務委任契約に際して預託金といって死亡後にすぐ必要になるであろう金銭を預けておきます。もちろん、預かっておくお金なので私的に使用するようなことはできません。専用の口座を開設してそこに入れておくのが一般的です。
遺言の作成を検討されている方は頼れる人は一度死後事務委任契約についても検討してみて下さい。ご相談をお待ちしております。