遺言と遺産分割協議の関係
相続が発生した時に、遺言の有無によってやるべき手続が大きく変わってきます。
今回は、「遺言がある場合の相続手続き」、「遺産分割協議が終わった後に遺言があることがわかった場合」、「遺言はあるが相続人で遺産分割協議をしたい場合」の3パターンについてそれぞれ説明します。
遺言がある場合の相続手続き
相続手続きにおいて、遺産の分配方法の決定においての最優先は遺言です。
遺言は被相続人が自分の財産を相続人にこうして引き継いで欲しいと、生前に自分自身の意思で決めていますのでその意思を尊重します。
ですので、遺言があればそれが自筆証書遺言であっても公正証書遺言であっても効力に差はなく、まずはその遺言の内容にしたがって遺産を分配しなければなりません。
もし、遺留分を侵害するような内容になっていたとしても、一旦は有効で、遺留分を侵害された相続人が遺産を多くもらった相続人に対して遺留分減殺請求をすれば初めて侵害された相続分を取り戻すことができます。
遺産分割協議が終わった後に遺言があることがわかった場合
被相続人が「遺言を遺した旨」を相続人に伝えていないと、遺言があることを知らずに遺産分割協議をして遺産を分けてしまうことがあります。
このような場合はどうすればいいのでしょうか。
結論として、遺言の内容に従わなければならないので、先に行っていた遺産分割協議は効力を失います。
そうならない為にも、遺言書の存在を明確に相続人に知らせておかなければなりません。
公正証書遺言の場合は、相続人が最寄の公証役場へ照会すれば、被相続人が公正証書遺言を遺していた場合はそのことがわかります。
ですが、自筆証書遺言の場合は、現行法ではどこにも登録されているものではないので、例えばタンスの奥にでもしまっていた場合に、やっと相続手続きが終わったときに出てきてしまって全部やり直しという事態にもなりかねません。
遺言は書いたら終わりではなく、書いた旨をきちんと相続人に伝えておかなければなりません。
また、気になる方もいるかもしれませんが、遺産分割協議のあとに相続した遺産を売却等で処分してしまい、その後に遺言があることがわかった場合はどうすればいいでしょう?
例えば、遺産分割協議によってAさんが不動産を取得してBさんに売却したとします。
その後、遺言が見つかりました。
遺言の効力によって、遺産分割協議は無効となりBさんはせっかく買った不動産を返さなければならいのでしょうか??
答えはBさんの権利は影響を受けません。
理論的には、不動産の所有権も相続時に遡って遺言によって本来相続する人のものになるはずですが、これだと流石にBさんが可愛そうですし、こんなことが認められるなら相続が絡む不動産の売買はリスクが高くて手が出せなくなります。
こういった場合には事後処理として、Aさんは売却代金として不動産を換価したお金を持つことになったので、遺言で当該不動産を本来相続するはずであった相続人は不動産の変わりにそのお金を寄越しなさいとAさんに請求できます。
Aさんは本来の相続人へお金を渡さなければなりません。
遺言はあるが相続人で遺産分割協議をしたい場合
遺言がある場合は原則として遺言の内容に従って遺産を分配しなければなりません。
ですが、例えば遺言の内容が相続人の内の一人に全財産を譲るような内容になっていて、揉め事になるのは嫌なので、全財産を相続する相続人を含めて、他の相続人も別の割合で相続したいということがあります。
そういった場合に、遺言の内容は絶対なのでしょうか。
これは、相続人全員が合意し(遺言執行者が別にいる場合はその人も含む)、かつ遺言で遺産分割が禁止されていない場合は可能とされています。
ですので、たとえ遺言があったとしても、遺言に内容と違う分配方法を取り決めた遺産分割協議を行うことができます。
また、先ほどの遺産分割協議が終わった後に遺言があることがわかった場合でも、相続人が全員合意すれば、先に行った遺産分割協議を有効とすることも可能です。
まとめ
- 相続財産の分配はまずは遺言の内容に従う
- 遺産分割協議が終わった後に遺言があった場合は、原則として遺産分割協議意は無効だがあとで全員で合意すれば有効とすることもできる
- 遺言はあるが相続人の意思で遺産分割協議をしたい場合は全員が合意すれば遺産分割協議をすることができる