家族信託事例集
状況
横浜在住のB子さんは、京都で独居している父親A太郎さん(90歳)が最近物忘れも多く、父親が自分自身できちんと財産管理ができているか心配です。
高齢のため、今後の施設への入居も検討しています。
インターネットで調べてみると、認知症になった場合には成年後見人を裁判所に選任してもらい、成年後見人が父親の財産管理することなるようですが、例え親族であっても必ずしも成年後見人になることはできないようです。
それに、司法書士等の専門家が成年後見人になると、毎月3万円程度の報酬もかかります。
できれば、実子であるB子さんが父親A太郎さんの財産管理をし、必要であれば不動産の処分等も行いたいと考えています。
家族信託の設計
委託者をA太郎さん、受託者をB子さん、受益者をA太郎さんとし信託契約を締結します。
委託者と受益者が同一人物なので、この信託によって贈与税や不動産取得税は発生しません。
また、A太郎さんの判断能力が低下すると受益者としての権利行使に支障をきたす場合があるので、B子さんの妹のC子さんを受益者代理人として設定しておきます。
信託する財産はA太郎さん所有の不動産と現金の一部とします。
一部現金を信託財産に入れておく理由として、受託者が固定資産税などの税金の支払いができなくなってしまうからです。
信託期間はA太郎さんが死亡するまでとし、A太郎さんが死亡して信託契約が終了した後の残余財産の帰属先は法定相続分どおりB子さんとC子さんが2分の1ずつ取得するようにします。
家族信託を行うメリット
高齢のA太郎さんの判断能力が不十分になった場合でも、信託した財産については成年後見制度を使わなくても、受託者であるB子さんが管理したり処分することができます。
また、家族信託の受託者は裁判所の監督下にも置かれないので、父親A太郎さんが施設に入居するための費用捻出のために実家を売却するような場合でも、信託契約でその旨を定めておけば、裁判所の許可を要せずに迅速にB子さんが単独で不動産を売却処分することができます。
受益者代理人としてC子さんを定めておくことによって、A太郎さんの判断能力低下後でもA太郎さんの受益者としての権利行使に支障が出ることもなく、かつ、受託者であるB子さんが適切に財産管理をしているかの監督機能も働きます。
信託契約終了後の残余財産の帰属先をあらかじめ定めることによって家族信託に遺言の機能も持たせることができます。
財産の承継先を決める場合に、真っ先に思いつくのは遺言でしょう。
ですが、遺言の場合は遺言者死亡後の財産の承継先をコントロールすることはできません。
家族信託を利用すれば、最初の相続(一次相続)だけではなく、二次相続以降もコントロールすることができます。
状況
本人Aさんには妻Bさん、長男Cさん、次男Dさんがいます。
長男Cさんの妻はEさんです。
次男夫婦には子ども(Aさんの孫)がいますが、長男夫婦CさんとEさんには子どもがいません。
Aさんは長男夫婦と同居中です。
Aさんの財産としては、自宅不動産のほかに預貯金が1000万円あります。
Aさんとしては、長男Cさんに財産を相続させたいのですが、Cさんが亡くなった後は財産のほとんどはEさんのものとなります。
Aさんは先祖代替受け継いできた自宅不動産はできれば血のつながりのある人に渡したい思っています。
家族信託の設計
当初Aさんは遺言で長男Cさんに自宅不動産を相続させるつもりでしたが、そうするとCさん亡き後の二次相続時に自宅不動産のほとんどをEさんが承継することになります。
遺言では、一次相続までしか財産の承継先を決めることはできないのです。
仮に長男Cさんにも遺言を残してもらって、相続した自宅不動産を弟である次男Dさんに承継させるとした場合も遺言の内容は後からいくらでも変更できるので、愛する妻Eさんにやっぱり財産を残してあげたいとCさんが考えた場合にはそれを防ぐ術はありません。
このようなケースだと二次相続以降も本人Aさんがコントロールできる家族信託がぴったりです。
方法としては、委託者Aさん、受託者次男Dさん、第一受益者長男Cさん、第二受益者次男Dさんという「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」という方法を活用します。
なぜ受託者を次男Dさんにしたかというと、受託者と受益者が同じ人になった場合1年で信託が終了してしまいます。
ですので、次男Dさんの理解もなければダメなのですが、今回のケースでは最終的にはDさんに自宅不動産が承継されることもあるので、CさんとDさんの関係性にもよりますが、Dさんの理解を得ることは可能だと考えられます。
こうすれば、Aさん亡き後も信託契約は効力があるので、長男Cさんが亡くなった後にAさんの財産はCさんからDさんへと承継されます。
ただし、長男Cさんの妻Eさんから次男Dさんに対して遺留分減殺請求権の行使も考えられるのでそれに耐えうる現金または生命保険を活用して不動産を守る対策はしておかなければなりません。
このように相続人に子どもがいないケースなどでは、二次相続以降のことも考えなければ将来、相続が争続になる可能性を秘めているため家族信託を活用することを検討した方が良いでしょう。
状況
Aさんには、二人の子ども(長男と長女)がいますが長男は精神的な障がいを持っています。
Aさんは高齢になってきたため長男の将来を心配し、長男に財産を残すために遺言を書こうと検討しています。
ですが、長男は精神的な障がいがあるので財産の管理を自分自身ですることには不安があります。
Aさんは自分が亡くなった後、長男が安心して生活をしていくだけの現金と、収益物件からの家賃収入を受け取ってほしいと思っています。
Aさんは、ご自身の死後、長男の面倒は、長女にみてもらいたいと思っており、長女もそれを了承しています。
家族信託の設計
Aさんは遺言を検討していますが、遺言では長男に向けて財産を長期的継続的に引き渡していくことはできません。
どうしても一括給付となってしまいます。
そこで、Aさんの財産を長女が管理するために長女を受託者とし、Aさんが生きている間はAさんを受益者に、Aさんが亡くなった後は長男B受益者とし、最終的には長女を残余財産の帰属権利者とする家族信託を検討します。
財産管理できる権利を長女に託しておくことで、Aさんが生きている間に万が一Aさんのも判断能力が下がり、長男の生活を守ることができない状況になった場合には、代わりに長女が扶養の範囲で長男の生活費を受け渡す等の決まりを設けておきます。
家族信託を行うメリット
自分が亡くなった後、妹である長女が毎月一定額の財産を長男に引き渡してくれるため、息子の生活が保障されます
受託者として長女に財産管理の権利を与えることで、Aさんの財産管理能力が低下した場合でも、すぐに長女が財産管理を行うことができます
状況
夫に先立たれたYさんには子どもが2人います。
現在は1人暮らしをしておりますが、最近体の調子が悪く自分の判断能力がなくなったら介護施設へ入所しようと考えています。
Yさんの財産のうち自宅不動産が大部分をしめているため、自分が自宅での生活が難しくなった場合には、自宅を売却してその代金を施設入所費用にあててもらいたいと思っています。
家族信託の設計
Yさんは、もしも認知症になってしまい介護施設へ入所することがあれば、子どもに自分に代わって自宅不動産を売却してもらいたいと望んでいます。
Yさんを委託者、子どもが受託者、Yさんを受託者として自宅不動産を信託財産とする信託契約を締結します。
信託契約には万が一Yさんが認知症になった場合は受託者である子どもが不動産の管理や売却を行うことができるようにしておきます。
Yさんを受益者とするので、信託後も自宅に暮らし、自宅売却後はその代金はYさんの施設入所費用にあてることができます。
さらにYさんが亡くなった後には2人の子どもが残余財産の帰属権利者として財産を引き継いで分けることも契約の中に含めました。
家族信託を行うメリット
家族信託契約を結ぶことで、本人が認知症になった後でも信託契約で定めた目的にしたがって、必要に応じた簡易迅速な自宅売却や、相続対策・資産運用を一貫して継続できることが一番のメリットです。自宅売却についても成年後見のように家庭裁判所の許可が必要となることなくスムーズに行えます
状況
地主のXさん(80歳)は、先祖代々の農地や収益不動産を数多く所有しています。
これまで特に相続税策をしていなかったので、このままXさんが亡くなるとかなりの金額の相続税が発生することが分かりました。
Xさんには、長男A、長女B、次女Cの三人の推定相続人がいます。
BとCは嫁いでいるので、先祖代々の農地や収益不動産をAが相続することには納得しています。
今は元気なXさんですが、年齢を考え早急に相続税対策をしたいというご相談です。
家族信託の設計
委託者をXさん、受託者をAさん、受益者をXさんとし信託契約を締結します。
信託財産が高額なので、このようなケースでは受託者を監督する信託監督人として司法書士を付けることにします。
信託する財産はXさん所有の全ての不動産と現金の一部とします。
一部現金を信託財産に入れておく理由として、受託者が固定資産税などの税金の支払いができなくなってしまうからです。
信託期間はXさんが死亡するまでとし、Xさんが死亡して信託契約が終了した後の残余財産の帰属先はAさんとします。
家族信託を行うメリット
高齢のXさんが万が一認知症等で意思能力を失った場合でもAさんが相続税対策を行うことができます
信託監督人を付けることによって、Xさんが意思能力を失った後でも受託者が適切にXさんのために財産管理をしているか監督してもらうことができます
信託契約終了後の残余財産の帰属先をあらかじめ定めることによって家族信託に遺言の機能をもたせることができます
※事例は長男が全て相続することに家族全員が同意していますが、通常は遺留分のことも考えて残余財産の帰属先を検討しなければなりません