遺留分対策としての民事(家族)信託
将来の相続のことを考える時に、税金のことも勿論ですが、遺産をどのように相続させるかも悩ましい問題です。
特に何も対策しなければ、遺された相続人の話し合いに委ねるということにはなりますが、元々相続人が不仲であったり、未成年者や障がいのある相続人がいる場合には、あらかじめ相続させる財産を決めておいてあげると、いわゆる争続(あらそうぞく)とならず円満な遺産承継が可能になります。
ですが、法律の知識をあまり持たない状態で漫然と遺言書を書いてしまうと、その内容によっては逆に争いの火種となってしまうこともあります。
特に遺産のほとんどを不動産が占める場合や、会社経営をしている場合に財産のほとんどが株式であるような場合に遺留分が問題となるケースが多いです。
遺留分とは
遺留分とは、簡単にいうと相続人に最低限保証されている相続分のことです。
相続人の内の一人に全財産を相続させるといった内容の遺言があった場合でも、兄弟姉妹を除く相続人については、一定割合の相続分について、全財産を相続した人に対して「こっちへよこせ」という権利を持ちます。この権利のことを遺留分減殺請求権といいます。
遺留分について考慮していない遺言書などは相続人間で不公平感を抱かせてしまって争いが生じさせてしまうことがあります。
遺留分を考慮した場合の弊害
不動産や株式を相続人の遺留分を侵害しないように共有取得にしてしまえば、ある程度平等に相続させることは可能です。
ただし、不動産を共有名義にしてしまうと、売却や大規模修繕などの際にいちいち他の共有名義人と協力して行わなければなりませんし、二次相続以降にはそれぞれの持分がそれぞれの相続人へと承継されていくので、共有名義人の数が更に増えたり、共有者同士の関係性も希薄になってくるので不動産の処分や管理に支障をきたす恐れが有ります。
株式の場合も、中小企業において重要なことは所有と経営を一致させることだと思いますので、経営者が議決権を過半数持てないような事態になってしまうとフレキシブルな会社運営をすることができなくなってしまいます。
民事信託を活用した遺留分対策
そこで民事信託を使って遺留分を考慮して不動産や株式を相続させる方法を考察します。
① 不動産の民事信託を用いた遺留分対策
前述のとおり、不動産を共有名義にしてしまうと、処分や管理の際に煩雑になったり二次相続以降に共有名義人の数が増えたり、共有者同士の関係性が希薄になったりする問題が発生します。
ですが、遺産のほとんどが自宅やアパート等の不動産という人の場合に、色々と事情はあると思いますが共有名義になることを嫌って、不動産を相続人の内の一人に承継させてしまうと他の相続人の遺留分を侵害してしまうことになります。
このような場合に備えて、民事信託を活用します。
民事信託の基本的な仕組みについては、以下を参照して下さい。
民事信託は不動産の価値を受益権という債権に変換します。
不動産という「物」の状態だと、名義を共有にせざるを得ないような状況であっても、受益権という「債権」に返還してしまえば、不動産の名義は受託者、受益権という不動産から生じる賃料収入等を請求できる債権を相続人に割り振ることができます。
管理や処分の際に受託者が単独で責任を持って動くことができるので、相続不動産の共有名義問題を解決することができます。
②株式の民事信託を用いた遺留分対策
株式の場合も不動産と同様です。むしろ会社運営に関わる部分なので、株式の名義人が複数になってしまうと更にやっかいな問題を引き起こします。
株式は過半数を持っていれば会社の重要な決定事項の多くを決めることができます。
ですが、株式の名義人が複数いると、本来会社を引き継ぐべき人の株式数が過半数に満たないことになってしまう場合があります。
そういった場合に不動産と同じように、民事信託を用いて、受託者を会社を引き継ぐ人とし、株式の配当等を受け取る受益者をそれぞれの相続人が遺留分を侵害しない程度の割合で引き継ぐように設定します。
そうすることによって、会社の運営、具体的には株式の議決権の行使については受託者たる会社を引き継ぐ人が担い、株式の配当金などは受益者がそれぞれ受け取りますが受益者は基本的には会社の運営に口を出しません。
以上、不動産と株式の相続の際に共有名義となってしまう問題について、民事信託を利用した対策方法をざっくりと説明しました。
実際の信託契約は、課税の問題など色々と考慮して実行しなければなりませんので、検討する場合は専門家へ相談、依頼して進めるようにして下さい。