認知症対策として後見ではなく家族信託をおすすめする理由

※このコラムは動画でも解説しています。


人生100年時代を迎えて、実寿命と健康寿命の乖離が問題となっています。

せっかく長生きしても、健康でなければ自分自身だけでなく家族に迷惑をかけてしまうことになります。

 

理想は「ピンピンコロリ」を目指すべきだと思いますが、アルツハイマー型認知症など病気に由来するような場合には、仕様が無い部分もあります。

 

運動や食生活に気を付けて、まずは健康寿命を延ばすことが先決だとは思うのですが、いずれにせよ万が一の時のために何らかの対策をしておくべきでしょう。

 

最近では、認知症対策保険などの保険商品も非常に契約数が多いらしく、保険会社各社から色々な商品が出ています。

 

保険であれば認知症になった場合に保険金が支払われますが、実際、認知症になった時に何が困るのかというと、本人が所有する「資産の凍結」なのです。

 

資産の凍結とは、本人名義の不動産が売却できなくなったり、預貯金口座が文字通り凍結されて引き出しができなくなるような事を言います。

 

それでは、この認知症のお困りごとナンバー1の資産凍結を回避する方法にはどのようなものがあるのでしょうか。

法定後見制度

まずは、おそらくその名称だけであればほとんどの方が聞いたことがあるであろう後見制度についてです。

 

後見制度には法定後見と後述する任意後見の2種類があります。

まずは法定後見についてです。

 

法定後見は、本人の判断能力が無くなったり、不十分になったりしたときに利用します。

ですので、事後的に取り得る方法ということになります。

逆を言えば、認知症が進んでしまったらこの法定後見を利用するしか選択肢は無くなり、何らかの対策をすることはできなくなります。

 

法定後見では、家庭裁判所が決定した人が本人の財産を管理する後見人等に就任することになります。

法定後見の困りごとで一番多いのが、たとえ本人の後見人等として親族が就任することを希望したとしても、裁判所の判断で適格ではないとすれば司法書士や弁護士等の専門家が就任することになります。

 

専門家が後見人等に就任すると報酬が発生します。

本人の財産規模にもよるのですが、3万円~程度の報酬が月々発生します。

これが原則本人が死亡するまで続くことになります。

 

また、本人名義の不動産を売却するにしても裁判所の許可が必要であったり、色々な重要な決定に際して裁判所にお伺いを立てる必要があり、不動産売却等の財産の処分に一定の制限がかかることになります。

 

  • 他人が後見人等になることがある
  • 財産の処分に制限がある
  • 専門職が後見人になった場合には月々の報酬が発生する

 

以上が法定後見のネックになる部分です。

任意後見制度

こちらの制度はなじみが無いかもしれませんが、前述の法定後見制度の仲間です。

 

任意後見を利用するには、本人が判断能力等しっかりしているうちに、将来、万が一認知症等で判断能力を無くしてしまった時に、後見人になってもらう人を契約で事前に決めることが出来る制度です。

この任意後見の契約は必ず公証役場で公正証書にしなければなりません。

 

将来、認知症等が発症して本人の判断能力が無くなったり低下した時に、裁判所に申し立てることによって任意後見の効力が発動します。

 

任意後見であれば、法定後見のように、裁判所が選んだ人が本人の後見人になるわけではないので、親族としても面識のない第三者とのやり取りが無くなるので安心です。

 

ただ、任意後見であってもやはり後見制度であることには変わりがなく、本人が財産管理を任せた任意後見人にも必ず裁判所が選任した後見監督人という立場の人(司法書士や弁護士等)が付きます。

 

後見監督人は法定後見の場合に専門職が後見人等になった場合と同じく、報酬が発生します。

 

法定後見でも任意後見でも後見制度の場合は直接的または間接的に裁判所の監督下に置かれるということになります。

 

裁判所が監督してくれるので、後見人等が不正を働きづらくなるメリットがある反面、財産の処分に裁判所の許可が必要であったり、ましてや財産を運用するといったことができなくなるので、認知症発症後の例えば相続税対策でアパート建築といったことはできないでしょう。

 

  • 任意後見であっても後見監督人が必ず付くので月々の報酬がかかってしまう
  • 公正証書の作成の手間と効力発動時の裁判所への申し立ての手間がかかる

 

以上が、任意後見のネックになる部分です。

家族信託(民事信託)

最後に家族信託(民事信託)です。

家族信託も任意後見と同様に本人の判断能力がしっかりしている時でないとすることができません。

家族信託は必ず公正証書で契約をする必要はありませんが当事務所では公正証書作成を推奨しています

 

家族信託は、一定の財産を契約によって受託者と呼ばれる特定の人に託します。

家族信託というだけあって、受託者は信頼できる家族で構いません。

自分の信頼できる人に財産管理を任せるという点で任意後見と似ています。

 

家族信託は、信託銀行等が財産を預かる「商事信託」とは違って、営利を目的としない信託契約になります。

 

信託された財産は本人(委託者)と受託者間の契約の内容に従って、受託者の裁量によって管理、処分及び運用することが可能です。

 

後見制度と違って、受託者は裁判所の監督下に置かれませんので、不動産の売却等の財産の処分について裁判所にお伺いを立てるということも不要ですし、相続税対策のために財産を運用したりすることもできます。

 

受託者は自分が決めた親族等にすることができるので報酬も無報酬にすることができます。

もちろん手間を考えて受託者にいくらか金銭をあげるような契約にするこもできますが、職務の範囲を考えて、あまり逸脱するような金額は商事信託との兼ね合いもあり、信託法違反となる可能性もあるので避けなければなりません。

 

家族信託が認知症対策として後見制度より優れていると私が考えるのは以下のとおりです。

 

  • 財産の管理はもちろん処分や運用まで自由に(契約の範囲で)することができる
  • 裁判所や監督人への報告の手間がない
  • 財産管理者である受託者の報酬は無報酬でも良い
  • 認知症になる前から効力を発動できるので隠居状態になれる

 

ただし、家族信託は契約で定めた財産の範囲でしか効力が及ばないので、後見のように身上監護(身の回りのことについての世話や契約)についてはフォローできません。

 

認知症対策をフルサポートするのであれば、家族信託以外にも任意後見制度を併用するとより安心でしょう。

 

家族信託が万能というわけではありませんが、こと認知症対策としての資産凍結のリスク回避にフォーカスするのであれば、現状一番に考えても良い選択肢だと思います。

 

この記事を書いた人佐伯知哉(さえきともや)司法書士紹介ページ

司法書士法人さえき事務所の代表司法書士。
主に相続関係の手続き、相続の生前対策(遺言・家族信託など)、不動産の登記、会社法人の登記を中心に業務を行っております。今後はさらに遺産相続問題に先進的に取り組む事務所を目指しています。

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